マウスピース型の矯正装置は、1日の多くの時間を口の中で過ごします。唾液や食べかすが残ったまま使い続けると、においやぬめりが気になるだけでなく、歯や歯ぐきにも汚れが触れ続けることになります。
一方で、透明な樹脂でできた装置は熱や強い薬剤に弱く、よかれと思ったお手入れで形を崩してしまうこともあります。この記事では、日本歯科医師会・日本歯科衛生士会・厚生労働省・消費者庁の資料をもとに、毎日の洗い方、洗浄剤の考え方、避けたいこと、保管のしかたを整理します。装置ごとの細かな指示は、医院から渡される説明書を優先してください。
毎日洗ったほうがよい理由
マウスピース矯正の装置そのものについて、公的機関がお手入れの方法を定めた資料は見当たりません。そこで参考になるのが、同じく樹脂でできていて口の中に入れる入れ歯やスポーツ用マウスガードの手入れの案内です。
日本歯科医師会の保健指導用教材は、入れ歯の手入れが悪いと特有のにおいがすることがあり、とくにプラスチックの部分には唾液が吸着し、細菌の作用でにおい物質が作られると説明しています。汚れたまま使い続けると、粘膜に炎症が起きたり、周りの歯がむし歯になったりすることもあるとしています。
マウスピースも、内側が歯の表面にぴったり触れる装置です。装置の汚れを落とすことは、歯を守るための手入れの一部と考えておきましょう。
基本の洗い方|水とやわらかいブラシで
日本歯科医師会は、入れ歯について食後に外してブラシでていねいに洗うことを勧めています。マウスガードについても、使う前に水で軽くすすぐよう案内しています。これらをもとに、毎日の流れをまとめると次のようになります。
- 外したら、すぐに流水ですすいで唾液を落とす
- やわらかいブラシで、歯に触れる内側と溝の部分をやさしくこする
- もう一度流水で洗い流す
- 口に戻す前に歯を磨き、装置の内側に汚れを閉じ込めない
- 使わないときは専用ケースへ入れる
力を入れてこすると、装置がゆがんだり、表面に傷がついたりするおそれがあります。ブラシは装置用に1本分けておくと、歯みがき剤が付いたまま装置を洗ってしまうことも防げます。どのくらいの硬さのブラシを使うかは、医院の説明に従ってください。
洗浄剤の選び方と使い方
水とブラシだけで落としきれないぬめりやにおいには、洗浄剤を使う方法があります。日本歯科医師会はマウスガードについて、ぬめりやにおいが気になるときは市販の義歯用(入れ歯用)の化学洗浄剤を使う方法も有効だとしています。入れ歯については、1週間に1回程度は入れ歯専用の洗浄剤を用いるとよいという案内もあります。
市販品には、入れ歯用として売られているもののほか、マウスピースやリテーナー用とうたうものもあります。ただし、矯正用のマウスピースに使ってよいかどうか、浸ける時間や頻度は、装置の素材によって異なります。使う前に、医院や装置の説明書で使ってよい洗浄剤の種類を確かめましょう。
最後の点は、消費者庁の資料にある事例が根拠です。洗面所でトローチやうがい薬と一緒に置いていた入れ歯洗浄剤を取り違えて口に入れた例が紹介され、取り違えやすいものは分けて保管するよう呼びかけられています。家族と洗面所を共有している場合はとくに気をつけましょう。
やってはいけないこと
| やりがちなこと | 避けたい理由 | 代わりにすること |
|---|---|---|
| 熱いお湯で洗う・消毒する | 樹脂は熱で軟らかくなり、形が変わるおそれがある | 水かぬるま湯で流す |
| 研磨剤入りの歯みがき剤でこする | 入れ歯の手入れでは歯みがき剤を使わないよう案内されている。表面に細かな傷がつくおそれがある | やわらかいブラシと水で洗う。使える製品は装置の説明書で確かめる |
| 台所用洗剤や漂白剤に浸ける | 装置用として案内されていない製品は、素材への影響がわからない | 装置の取扱説明や医院の指示に従う |
| ポケットや車内に置く | 押しつぶしや高温で変形するおそれがある | 専用ケースに入れて持ち歩く |
出典:日本歯科医師会「スポーツと歯科」、日本歯科衛生士会「歯みがきとうがいで肺炎を予防しましょう!」、e-ヘルスネットをもとに作成
熱いお湯がだめな理由
日本歯科医師会は、マウスガードは熱に弱い素材でできているため、熱いお湯で洗うことは厳禁だとしています。同じページでは、市販のマウスガードを80〜90度の湯に浸けて軟らかくし、歯の形に合わせて成形する手順も紹介されています。熱で形が変わる素材だからこそ成形できるわけで、熱湯での消毒や煮沸、食器洗い乾燥機などは避けたほうがよいと考えられます。
歯みがき剤を使わない理由
日本歯科衛生士会は、入れ歯をブラシで洗うときに歯みがき剤を使わないよう案内し、研磨剤を含まない入れ歯専用のものを紹介しています。e-ヘルスネットでも、研磨剤は歯みがき剤の基本成分の一つとされています。なお、マウスガードについては汚れがひどいときに歯みがき剤で磨く方法を示す案内もあり、扱いは装置によって分かれます。矯正用のマウスピースは、説明書に記載がなければ使わないでおくのが無難です。
保管と持ち歩きの注意
日本歯科医師会はマウスガードについて、高温で変形しやすいため夏の車内や冬の暖房器具の近くに置かないこと、ポケットに入れたり踏みつけたりしても変形するおそれがあることを挙げ、専用のプラスチック容器での保管を勧めています。また、密閉性の高い容器に長期間入れたままにするのは適切ではないとしています。
保管するときに乾かすか水に浸けるかは、装置によって案内が異なります。入れ歯は乾燥すると変形するため水を入れたケースで保管するよう案内されている一方、マウスガードはよく洗って水気を取ってから容器にしまうよう勧められています。矯正用のマウスピースはどちらに当たるか、説明書で確かめておきましょう。ケース自体も汚れがたまりやすいので、ときどき洗って乾かします。
よくある質問
水ですすいで唾液や食べかすを落とし、ケースに入れておきましょう。帰宅したら、やわらかいブラシでいつもどおり洗います。装置を戻す前に口をゆすぐことも忘れずに。
頻度は装置の素材や製品によって異なります。入れ歯では週1回程度の洗浄剤の使用が紹介されていますが、矯正用のマウスピースは医院や説明書の指示に従いましょう。毎日の基本は水とブラシです。
強い薬剤を自分で試すと、かえって装置を傷めるおそれがあります。洗い方を見直しても気になる場合は、次の受診時に装置を見てもらい、交換が必要かどうかも含めて相談しましょう。
まとめ
参考にした資料
- 日本歯科医師会 テーマパーク8020「スポーツと歯科」マウスガード徹底解説(Q10・Q12)
https://www.jda.or.jp/park/relation/sport_03.html(確認日 2026-10-19) - 日本歯科医師会 テーマパーク8020「スポーツと歯科」マウスガード徹底解説(Q13)
https://www.jda.or.jp/park/relation/sport_04.html(確認日 2026-10-19) - 日本歯科医師会「支援用教材(保健指導用教材)」C-8 義歯の清掃法
https://www.jda.or.jp/dentist/program/pdf/web_shiryo1.pdf(確認日 2026-10-19) - 日本歯科衛生士会「歯みがきとうがいで肺炎を予防しましょう!」(厚生労働省ウェブサイト掲載)
https://www.mhlw.go.jp/content/10600000/001730292.pdf(確認日 2026-10-19) - 厚生労働省 e-ヘルスネット「歯みがきを助けるもの(電動歯ブラシ・歯磨剤・洗口液)」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-03-007.html(確認日 2026-10-19) - 消費者庁 視聴覚資料「家庭用品等による中毒事故を防ぐために」の指導者用解説書
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/other/information_005/pdf/120511kouhyou_2.pdf(確認日 2026-10-19)

