「矯正をするなら歯を抜かないといけないのでは」「歯を削ると聞いて不安」。マウスピース型の装置での矯正を考え始めると、こうした疑問にぶつかる人は少なくありません。
この記事では、日本歯科医師会・日本臨床矯正歯科医会・日本矯正歯科学会の一般向け資料をもとに、歯を並べるためのスペースの作り方と、抜歯とIPRの違いを整理します。どの方法が合うかは一人ひとり違い、精密検査と診断を経て歯科医師が判断するものです。この記事は判断の材料として読んでください。
歯を並べるには「スペース」が要る
日本歯科医師会の解説では、デコボコに重なった歯を動かしてきれいに並べるには、そのためのスペースが必要だとしています。歯の大きさに対してあごが小さいと、歯が並びきらずに重なったり、前に押し出されたりします。
つまり矯正の計画では、「足りないスペースをどこから、どれだけ確保するか」が大きなテーマになります。抜歯もIPRも、その確保のしかたの一つです。
スペースを作る主な方法
| 方法 | 考え方 |
|---|---|
| 歯列の幅を広げる | 歯の並びのアーチを外側へ広げて場所を作る。あごの大きさによって広げられる量には限りがある |
| 奥歯を後ろへ動かす | 奥歯から順に後ろへ移動させ、前の歯が並ぶ場所を作る |
| IPR(歯の側面を少し削る) | 隣り合う歯が接する面のエナメル質をわずかに削り、歯の幅を少し小さくする |
| 抜歯 | 一部の歯を抜いて、その場所を使って歯並びやかみ合わせを整える |
出典:日本歯科医師会 テーマパーク8020「矯正歯科」Q9、日本臨床矯正歯科医会「健康な歯を抜く理由」をもとに作成(IPRの説明は一般的な用語解説)(確認日 2026-10-19)
日本歯科医師会は、歯を抜かずに治療する場合は歯列の幅を広げたり奥歯から順に後ろへ動かしたりしてスペースを得るものの、あごの大きさによってその量は限られると説明しています。限界を超えると、かえって後戻りなどの弊害が起こることがあり、その場合は抜歯が必要になるとしています。
日本臨床矯正歯科医会の解説記事でも、装置で歯列をある程度広げられても、あごの骨そのものが広がるわけではないこと、下あごは骨の構造上、上あごほど歯列を広げられないことが指摘されています。広げる方法を選ぶ場合も、どこまでなら無理がないかを検査で見極めることになります。
IPRとは何か、抜歯とどう違うか
IPR(Interproximal Reduction)は、歯と歯が接している側面のエナメル質をごくわずかに削って、歯の幅を少し小さくする処置です。ディスキングやストリッピングと呼ばれることもあります。抜歯が歯を1本単位で取り除くのに対し、IPRは複数の歯から少しずつ幅を減らしてすき間を作る点が違います。
削る量や対象の歯、回数は、歯の大きさや形、エナメル質の状態を見て歯科医師が決めます。日本歯科医師会は、歯は削れば削るほど寿命を短くすることにつながりやすいとして、歯へのダメージをできるだけ小さくする治療の考え方を紹介しています。削った部分は元に戻らないので、どの歯をどの程度削る計画なのか、事前に説明を受けておきましょう。
抜歯が検討される主なケース
日本臨床矯正歯科医会は、抜歯は歯並びとかみ合わせ、横顔の改善のために行われる場合があるとして、主に次の3つを挙げています。
- 歯とあごの大きさのアンバランスが、拡大で対応できる限度を超えている
- 上下のかみ合わせのズレを、抜歯したスペースを使って整える
- 口元が前に出ているのを、歯を後ろへ動かして整える
同会の解説記事では、歯を抜かずにデコボコだけを解消しようとして歯列が外へ広がり、口元が出たり、一部の歯に負担がかかったりした例も紹介されています。日本矯正歯科学会のQ&Aも、矯正歯科医は基本的に抜歯を避けたいと考えており、抜歯は他の方法を検討したうえでの判断だと説明しています。
マウスピース型の装置と抜歯の関係
日本矯正歯科学会の「アライナー型矯正装置による治療指針」では、推奨される症例として、歯を抜かずに治療する症例のうち、すき間が軽度のもの、軽度の重なりで歯列の拡大によって改善が見込めるもの、大きな歯の移動を伴わないものを挙げています。抜歯する症例でも、歯の移動量が少なく、傾けるだけの動きで改善が見込めるものは推奨に含まれます。
一方、抜歯する症例のうち歯の大きな移動が必要なものなどは推奨されない例に入っており、抜歯症例では予期しない移動が起こることがあるとも注意しています。日本臨床矯正歯科医会も、マウスピース型の装置で目標に届かない場合は、ワイヤーを使う装置へ方針を変えることがあると説明しています。
方針を決めるための検査
日本矯正歯科学会のQ&Aによると、矯正前の検査は通常、問診、口の中の診査、レントゲン写真(頭部X線規格写真やパノラマX線写真など)、顔と口の写真、歯型の採取で構成され、必要に応じてあごの関節の検査なども加わります。日本歯科医師会も、歯列模型やレントゲンでデコボコの程度やあごの骨の大きさ・形を確かめ、総合的に診断するとしています。
相談のときに確かめたいこと
- スペースはどの方法で、どの程度確保する計画か
- 抜歯する・しないそれぞれの場合に、口元やかみ合わせがどう変わる見込みか
- IPRを行うなら、対象の歯と回数
- 計画どおりに進まないときの代わりの方法
よくある質問
日本歯科医師会は、複数の医療機関に相談してセカンドオピニオンを求めてもよいとしています。それぞれの医院で、そう判断した理由と、抜く場合・抜かない場合の見込みを説明してもらい、比べてみましょう。
日本矯正歯科学会のQ&Aでは、想定外の問題が起きたときに、当初の説明とは異なる提案をすることがあると説明されています。理由に納得できるまで主治医に確認してください。
日本矯正歯科学会のQ&Aでは、親知らずは生える場所がなく斜めに生えたり埋まったままになったりすることがあり、前の歯を押す心配があるものはあらかじめ抜くことが多いと説明されています。必要かどうかは検査結果をもとに歯科医師が判断します。
まとめ
参考にした資料
- 日本歯科医師会 テーマパーク8020「矯正歯科」
https://www.jda.or.jp/park/trouble/index08.html(確認日 2026-10-19) - 日本歯科医師会 テーマパーク8020「ホワイトニング」
https://www.jda.or.jp/park/trouble/white.html(確認日 2026-10-19) - 日本臨床矯正歯科医会「治療をするうえで、健康な歯を抜くこともあると聞きましたが、それはなぜですか?」(2011年9月13日公開)
https://www.jpao.jp/faq/howto/entry-4400.html(確認日 2026-10-19) - 日本臨床矯正歯科医会「アライナー型矯正装置(マウスピース型矯正装置)でどんな歯並びでも治療することができますか?」
https://www.jpao.jp/faq/howto/entry-4395.html(確認日 2026-10-19) - 日本臨床矯正歯科医会 トレンドウォッチ vol.25「歯を抜かない(非抜歯)矯正歯科治療の現状と課題」(2020年2月17日公開)
https://www.jpao.jp/news/trendwatch/entry-4705.html(確認日 2026-10-19) - 日本矯正歯科学会「アライナー型矯正装置による治療指針」(平成29年2月27日発行)
https://www.jos.gr.jp/asset/aligner_pointer.pdf(確認日 2026-10-19) - 日本矯正歯科学会「矯正歯科治療について」(Q&A)
https://www.jos.gr.jp/about(確認日 2026-10-19)

