前歯のすき間や歯の重なりが気になったとき、透明なマウスピースで整えられるのかは気になるところです。ただ、同じ「出っ歯」に見えても、原因が歯の傾きにある場合と、あごの骨の大きさや位置にある場合とでは、選べる方法がまったく変わります。
この記事では、日本矯正歯科学会と日本臨床矯正歯科医会が公開している資料をもとに、歯並びのタイプごとの特徴と、マウスピース型の装置が向くとされる状態・向かないとされる状態を整理します。ここで紹介するのは一般的な目安で、あなたの歯並びにどの方法が合うかは、精密検査をもとに歯科医師が診断します。
よく聞く歯並びの呼び方と正式な名称
日常で使う呼び方と、歯科で使う名称は少し違います。日本矯正歯科学会が治療の対象として挙げている主な不正咬合(かみ合わせの異常)は、次のとおりです。
| よく使う呼び方 | 歯科での名称 | どんな状態か |
|---|---|---|
| すきっ歯 | 空隙歯列 | 歯と歯の間にすき間がある |
| ガタガタ・八重歯 | 叢生(そうせい) | 歯が重なり合ってデコボコに並ぶ。八重歯は上の糸切り歯が列から飛び出したもの |
| 出っ歯 | 上顎前突 | 上の前歯が強く前に傾いている、または上の歯並び全体が前に出ている |
| 受け口 | 反対咬合・下顎前突 | かみ合わせたとき、下の歯が上の歯より前に出る |
| 前歯が閉じない | 開咬(かいこう) | 奥歯をかんでも、特に前歯がかみ合わない |
出典:日本矯正歯科学会「矯正歯科治療について」(確認日 2026-10-19)
学会は、日常生活に支障があると考えられる場合を治療の対象としています。歯の重なりやすき間、食べ物の挟まりやすさなどが相談の手がかりになります。
「歯の問題」と「骨格の問題」は見た目では分けにくい
学会の「矯正歯科治療における標準治療の指針」では、不正咬合の原因を歯の位置や傾き(歯性)とあごの骨の大きさや位置(骨格性)に分けて考えます。骨格の問題は前後・上下・左右の3方向で分析され、前後方向のずれは骨格性の出っ歯や受け口、上下方向のずれは骨格性の開咬などの一因になるとされています。
骨格のずれは歯の傾きで補われていることが多く、外見だけでは区別がつきにくいのが難しい点です。そこで矯正歯科では、横顔の骨格を一定の条件で撮る頭部エックス線規格写真(セファログラム)、歯の模型、顔と口の中の写真などを組み合わせて診断します。マウスピース型の装置でも、この検査と分析が前提です。
成長が終わった大人で骨格のずれが大きい場合、装置だけでは十分な結果を得にくく、手術と矯正を組み合わせる「外科的矯正」が選択肢になることがあります。一方で、骨格の問題をすべて手術で解決するのではなく、歯の位置で目立ちにくく整える方針がとられる場合もあります。
マウスピース型の装置が向く状態・向かない状態
日本矯正歯科学会の「アライナー型矯正装置による治療指針」(2017年)は、歯科医師向けに推奨される症例と推奨されない症例を示しています。
| 区分 | 指針に挙げられている例 |
|---|---|
| 推奨される症例 | 歯を抜かずに進める症例のうち、軽度のすき間がある/軽度の重なりを歯列の拡大で改善できる見込みがある/大きな歯の移動を伴わないもの。矯正後の後戻りの改善。金属アレルギーがある場合 など |
| 推奨されない症例 | 歯の大きな移動・大きな回転などが必要な抜歯症例/乳歯が残る時期で成長の予測が難しい場合/骨格性の不正がある場合 |
出典:日本矯正歯科学会「アライナー型矯正装置による治療指針」(確認日 2026-10-19)
2019年の学会見解でも、マウスピース型の装置は歯の移動量が少ない症例に限られること、小児や骨格性の要因を含む症例には適さないことが欠点として挙げられています。また、結果は装着の状況に大きく左右され、目標に届かない場合はワイヤーを使う装置へ切り替えることもあると、日本臨床矯正歯科医会は説明しています。
タイプ別に見る考え方
すきっ歯(空隙歯列)
軽度の空隙は指針の「推奨される症例」に含まれます。ただ、すき間ができた理由は人によって違うため、歯の本数や大きさを検査で確かめてから計画が立てられます。
ガタガタ・八重歯(叢生)
歯を並べる骨の大きさと歯の大きさの不均衡で起こり、磨き残しから虫歯や歯周病につながりやすいとされます。重なりが軽ければ指針の推奨範囲に入りますが、程度が大きいほど治療計画の組み立てが変わるため、重なりの量の評価が判断の分かれ目になります。
出っ歯(上顎前突)
上の前歯の傾きが主な原因なのか、下あごが小さい・後ろにあることで出っ歯に見えるのかで、考え方が変わります。前者で移動量が小さければ候補になり得ますが、後者のように骨格が関わる場合は指針上「推奨されない」側に入ります。
受け口(反対咬合・下顎前突)
前歯の傾きによるものと、下あごが大きい・上あごが小さいといった骨格によるものがあります。骨格が原因の場合は、成長期なら長い期間の経過観察が必要とされ、大人では外科的矯正が検討されることもあります。
前歯が閉じない(開咬)
前歯でかみ切りにくい、発音しにくいといった影響が出やすいタイプです。指しゃぶりや舌の癖、遺伝的な要因が関わるとされ、歯の並びだけでなく舌や唇の使い方も含めて原因を見極めます。骨格の上下方向のずれが関わる場合もあります。
健康保険が使える矯正の線引き
見た目を整える目的の矯正は原則として自費診療です。日本矯正歯科学会によると、健康保険の対象になるのは次の3つの場合で、しかも国の施設基準を満たして届け出た医療機関で受けることが条件です。
- 唇顎口蓋裂など「別に厚生労働大臣が定める疾患」が原因のかみ合わせの異常
- 前歯・小臼歯の永久歯が3本以上生えてこない(埋伏歯の開窓術が必要)ことによるかみ合わせの異常
- 顎変形症で、あごの骨の手術を前提に行う手術前後の矯正
届け出ている医療機関は、地方厚生局の「施設基準の届出受理医療機関名簿」で確認できます。なお、学会のマウスピース型装置の治療指針には「保険診療には使用できない」と記されています。
相談のときに確かめたいこと
- 自分の歯並びは「歯の問題」「骨格の問題」のどちらが主か、またはその両方か
- 頭部エックス線規格写真を含め、どんな検査をもとに診断したか
- マウスピース型で予定どおり進まなかったとき、どんな方法に切り替えるか
- 保険の対象になる可能性があるか、届出をしている医療機関か
よくある質問
学会の指針は、マウスピース型の装置でも頭部エックス線規格写真や口腔模型などを使った検査・分析・診断を前提としています。写真だけでは骨格の問題を見分けにくいため、最終的な判断は来院しての精密検査で確かめましょう。
前歯の傾きが原因なら矯正装置で対応する場合があります。あごの骨のずれが大きい場合は、手術と矯正を組み合わせる外科的矯正が検討されることもあります。どちらに当たるかは検査で判断されます。
見た目の改善を目的とした矯正は原則として自費です。顎変形症で手術を伴う場合や、厚生労働大臣が定める疾患が原因の場合などに限り、届出をした医療機関で保険が適用されます。
まとめ
参考にした資料
- 日本矯正歯科学会「矯正歯科治療について」
https://www.jos.gr.jp/about(確認日 2026-10-19) - 日本矯正歯科学会「矯正歯科治療が保険診療の適用になる場合とは」
https://www.jos.gr.jp/facility(確認日 2026-10-19) - 日本矯正歯科学会「アライナー型矯正装置による治療指針」(平成29年2月27日発行)
https://www.jos.gr.jp/asset/aligner_pointer.pdf(確認日 2026-10-19) - 日本矯正歯科学会 ポジションステートメント「マウスピース型矯正装置による治療に関する見解」
https://www.jos.gr.jp/4348(確認日 2026-10-19) - 日本矯正歯科学会「矯正歯科治療における標準治療の指針」
https://www.jos.gr.jp/asset/public2022_0912.pdf(確認日 2026-10-19) - 日本臨床矯正歯科医会「アライナー型矯正装置(マウスピース型矯正装置)でどんな歯並びでも治療することができますか?」
https://www.jpao.jp/faq/howto/entry-4395.html(確認日 2026-10-19) - 日本臨床矯正歯科医会「顎変形症を治すには外科手術が必要だと言われましたが、矯正歯科治療だけでは無理なのでしょうか?」
https://www.jpao.jp/faq/howto/entry-4422.html(確認日 2026-10-19)

