家の名義変更と住宅ローンの名義変更は別の手続き|財産分与の登記と借り換え

デスクの上で、書類に印鑑を押そうとしている手元 離婚と住まいのコラム

離婚の話し合いで「家はこちらが受け取る」と決まっても、その合意だけで登記簿の所有者やローンの借主が書き換わるわけではありません。家については法務局、ローンについては借入先の金融機関と、窓口も条件も異なる二つの手続きが待っています。

この記事では、法務局が公開している申請書の記載例と、民法・不動産登記法の条文をもとに、所有権を移す登記の進め方とローンの借主を入れ替える方法を順に見ていきます。ご自身の事情でどう進めるかは、司法書士・弁護士・借入先に確かめてください。

この記事でわかること

  • 登記簿の名義とローンの借主が、それぞれ何を表しているか
  • 財産分与で所有権を移す登記の申請人と添付書類
  • 登記を申請する時期と、登記原因の日付の決まり方
  • ローンの借主を変える「債務引受」と「借り換え」の違い

登記簿の名義とローンの借主は、相手にする窓口が違う

家の「名義」とは、法務局の登記簿(登記事項証明書)の権利部に記録された所有者のことです。民法177条は、不動産の権利の移り変わりは登記をしなければ第三者に主張できないと定めています。話し合いで家を受け取ると決めても、登記を移さないうちは、外から見た持ち主は元のままです。

これに対して住宅ローンの借主(債務者)は、借入先と結んだ金銭消費貸借契約で決まっています。金融機関との約束ごとなので、夫婦の取り決めだけでは入れ替わりません。また、ローンの残る家には借入先の抵当権が登記されているのが普通です。抵当権は担保に入れた不動産そのものに付く権利なので(民法369条)、所有者が替わっても抵当権は付いたままです。

変えるもの手続きの相手決まり方夫婦の合意だけで済むか
家の所有者(登記名義)法務局渡す人と受け取る人が共同で登記を申請する(不動産登記法60条)書類がそろえば申請できる
ローンの借主(債務者)借入先の金融機関金融機関との契約。債務引受には債権者の関与が要る(民法472条)済まない

出典:e-Gov法令検索 民法・不動産登記法をもとに作成(確認日 2026-10-19)

財産分与で家の所有者を移す登記

財産分与で家を受け取ったときの登記は、登記の目的が「所有権移転」、登記原因が「財産分与」です。法務局は財産分与用の申請書の様式と記載例を公開しており、令和8年10月5日以降に申請する人向けの版も出ています。

申請人は、渡す人と受け取る人の二人

不動産登記法60条により、権利に関する登記は登記権利者と登記義務者が共同で申請するのが原則です。財産分与では、家を受け取る人が登記権利者、渡す人が登記義務者になります。記載例では、受け取る人が相手から委任を受けて一人で窓口に出す形が示されていて、渡す人は委任状に実印を押します。

相手が手続きに協力しないときは事情が変わります。同法63条は、登記手続をするよう命じる確定判決があれば、もう一方が単独で申請できると定めています。調停や審判で決めた場合は、調停調書や確定した審判書に相手が登記手続をする旨が書かれていれば、確定判決と同じく受け取る側が単独で申請できます(家事事件手続法75条・268条1項)。条項の書き方や条件の有無で扱いが変わるため、申請前に法務局で確認しましょう。

そろえる書類

記載例の添付情報欄と注意書きから、主な書類を拾うと次のとおりです。

  • 渡す人の登記識別情報(または登記済証=いわゆる権利証)
  • 登記原因証明情報(財産分与協議書など、日付・当事者・対象の不動産が分かる書面)
  • 渡す人の印鑑証明書(作成から3か月以内のもの)
  • 受け取る人の住民票の写し(住民票コードを書けば省略できる)
  • 代理で申請するときの委任状
  • 国籍等を証する情報(令和8年10月5日以降の申請)

見落としやすいのが渡す人の住所です。申請書に書く義務者の住所・氏名は登記記録と一致している必要があり、家を出て住所が変わっていれば、先に住所の変更登記をします。申請書には課税価格と登録免許税額の欄もあります。財産分与による移転登記にも登録免許税がかかりますが、税率と計算方法は税金をまとめたコラムで扱います。

登記を申請する時期と原因日付

民法768条は、財産分与を「協議上の離婚をした者の一方」が相手に請求できるものと定めています。離婚していることが出発点です。法務局の記載例も、登記原因の日付は財産分与の協議が成立した日とし、協議離婚の届出より前に協議がまとまっていた場合は、届出の日が原因日になると説明しています。このときは、離婚の記載がある戸籍の証明書を添えます。

このため実際の申請は、離婚届が受理され、協議書がそろってからになります。登記を後回しにしているあいだは、登記簿の上では相手の家のままです。分与の内容が固まったら、間を空けずに書類を集め始めるとよいでしょう。

住宅ローンの借主を入れ替える2つの方法

ローンの借主を変える方法として、ここでは「債務引受」と「借り換え」を取り上げます。どちらも金融機関の判断が要ります。

債務引受:今のローンを引き継ぐ

民法472条は、元の借主が返済義務を免れ、別の人が同じ内容の債務を負う「免責的債務引受」を定めています。成立の形は、債権者(金融機関)と引き受ける人との契約か、元の借主と引き受ける人との契約に債権者が承諾する形です。夫婦のあいだで「これからは私が払う」と決めても、金融機関が加わらなければ借主は元のままです。

引き継ぎに応じるかどうかは金融機関が決めることで、引き受ける人の収入や返済の見通しが見られます。まずは借入先に、債務者の変更を相談できるかを問い合わせましょう。

借り換え:新しく借りて今のローンを返す

借り換えは、住み続ける人が自分の名前で新たに借り入れ、その資金で今のローンを返し終える方法です。元のローンがなくなるので、相手は借主の立場から外れます。国税庁の質疑応答事例にも、財産分与で前の夫の住宅を受け取り、残っていたローンの返済に充てるため別の金融機関から借り入れたケースが載っています。

新しい融資なので、借りる人一人の収入や勤務先、ほかの借入れなどをもとに審査があります。離婚後の収入で無理なく返せる額を先に試算しておきましょう。名義の移転と借り換えをどの順で、あるいは同じ日に行うかは、金融機関と司法書士で段取りを合わせることになります。

返済中の家の所有者を変える前に、金銭消費貸借契約書や抵当権設定契約書に、担保の不動産を譲るときの取り決めがないか読んでおきましょう。条項の意味が分からないときは、登記の申請より先に借入先へ問い合わせるのが筋です。

動き出す前に手元で確かめること

  • 登記事項証明書で、今の所有者・持分・抵当権の内容を見ておく
  • 協議書に、どの不動産を・いつ・誰に分与するかを書いておく
  • 借入先に、債務者の変更や借り換えの条件を聞いておく
  • 登録免許税や譲渡所得の扱いを、税務署や税理士に聞いておく

よくある質問

法務局の記載例では、離婚届の前に財産分与の協議がまとまっていても、登記原因の日付は協議離婚の届出の日になると説明されています。離婚の成立後に、戸籍の証明書を添えて申請する流れです。

法務局は財産分与用の申請書の様式と記載例を公開しており、当事者が自分で申請することもできます。書類に不備があると補正を求められるので、手間や期限を考えて司法書士に依頼する方法もあります。

なくなりません。登記は所有者を表すもので、借主は金融機関との契約で決まっています。借主の立場から外れるには、債務引受について金融機関の関与を得るか、借り換えで今のローンを返し終える必要があります。

まとめ

  • 家の名義は法務局の登記、ローンの借主は金融機関との契約。窓口も決まり方も別
  • 財産分与の登記は「所有権移転/財産分与」。原則は渡す人と受け取る人の共同申請
  • 原因日付は協議の成立日。離婚届より前に協議したときは届出の日になる
  • 借主を変えるには、金融機関が加わる債務引受か、新たな借入れによる借り換え
  • 契約書と登記事項証明書を読み、迷う点は司法書士・弁護士・借入先へ

参考にした資料

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