離婚を機に家を売ると決めても、何から始めればよいのか、離婚届を出す前と後のどちらで売るのがよいのか、迷う方は多いはずです。家の売却は契約をいくつも重ねる手続きで、共有名義なら2人がそろって判断する場面が何度もあります。
この記事では、通常の売却の流れを4つの段階に分けて、法律で決まっていることと2人で決めておくことを整理します。そのうえで、離婚の前に売る場合と後に売る場合で何が変わるかを比べます。
家を売る4つの段階
不動産会社に仲介を頼んで売る場合、おおまかな流れは次のとおりです。離婚にあたっての売却では、各段階で2人の意見をそろえておく必要があります。
| 段階 | すること | 2人で決めておくこと |
|---|---|---|
| 1. 価格の見立て | 不動産会社に売れそうな価格を出してもらう | どの会社に頼むか、売出価格の下限 |
| 2. 媒介契約 | 売却活動を任せる会社と契約を結ぶ | 契約の種類、窓口になる人 |
| 3. 売買契約 | 買主と条件をまとめ、契約書に署名する | 価格・引渡しの日・手付金の扱い |
| 4. 決済・引渡し | 代金を受け取り、鍵を渡し、所有権の移転登記をする | 代金の受け取り口座と分け方、退去の日 |
1. 価格の見立てを出してもらう
最初に、不動産会社に売れそうな価格の見立てを出してもらいます。宅地建物取引業法は、業者が売買すべき価額について意見を述べるときはその根拠を明らかにしなければならないと定めています(第34条の2第2項)。近くで売れた物件の例など、どんな理由でその価格になったのかを聞き、2人とも同じ説明を受けておくと、あとで食い違いが起きにくくなります。
2. 媒介契約を結ぶ
売却活動を任せる会社が決まったら、媒介契約を結びます。業者は契約を結んだら、物件の表示や価額、契約の有効期間、報酬などを書いた書面を依頼者に渡さなければなりません(同条第1項)。媒介契約には3つの種類があり、法律と国土交通省の標準媒介契約約款で次のように整理されています。
| 一般媒介 | 専任媒介 | 専属専任媒介 | |
|---|---|---|---|
| ほかの会社にも頼む | できる | できない | できない |
| 自分で見つけた買主と契約 | できる | できる | できない |
| 指定流通機構への登録 | 法律上の義務なし | 契約日から7日以内(休業日を除く) | 契約日から5日以内(休業日を除く) |
| 業務の状況の報告 | 法律上の義務なし | 2週間に1回以上 | 1週間に1回以上 |
| 有効期間 | 法律上の上限なし(標準約款では3か月以内) | 3か月まで | 3か月まで |
出典:宅地建物取引業法第34条の2、同法施行規則第15条の9・第15条の10、国土交通省「標準媒介契約約款」をもとに作成
専任媒介・専属専任媒介の有効期間が3か月より長く決められていても、3か月とされます(同条第3項)。どの種類が合うかは家の条件や2人の都合で変わるため、契約前に書面の中身を2人で読んでおきましょう。
3. 売買契約を結ぶ
買主が見つかったら、価格や引渡しの日などの条件をまとめて売買契約を結びます。契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士が買主に重要事項を書面で説明することになっています(第35条)。契約が成立すると、業者は代金の額と支払いの時期、引渡しの時期、移転登記の申請の時期などを書いた書面を、売主と買主の双方に渡します(第37条)。
離婚にあたっての売却では、この書面に書かれた引渡しの日までに2人とも退去できるかを、契約前に確かめておくことが大切です。
4. 決済・引渡し
決済の日には、買主から残りの代金を受け取り、鍵を渡して、所有権を買主に移す登記の手続きをします。住宅ローンが残っている家なら、この日に受け取った代金で返済を終えるのが通常の流れです。代金をどの口座で受け取り、どう分けるかは、決済の前に決めて書面にしておきましょう。
共有名義なら2人の同意が要る
家が夫婦の共有名義になっている場合、片方だけの判断で家全体を売ることはできません。民法第251条は、各共有者はほかの共有者の同意を得なければ共有物に変更を加えることができないと定めています。法務省の法制審議会の資料でも、共有物全体の売却など法律上の処分は、裁判実務・学説上、共有者全員の同意が要ると解されていると説明されています。
実際の手続きでも、媒介契約・売買契約・登記の書類には、名義人それぞれの署名や書類が必要になります。相手の所在が分からなくなった場合には、裁判所の手続きを使う方法もありますが(同条第2項)、時間がかかります。連絡が取れるうちに進め方を決めておくのが現実的です。
離婚の前に売るか、離婚の後に売るか
どちらが正解ということはなく、2人の状況によって向き不向きがあります。主に変わるのは、連絡の取りやすさ、代金の分け方を決める順番、そして税金の特例の条件です。
| 見るところ | 離婚の前に売る | 離婚の後に売る |
|---|---|---|
| 連絡と同意 | 同じ家に住んでいれば日程や書類のやりとりがしやすい | 住まいが別になり、連絡や書類の受け渡しに時間がかかることがある |
| 代金の分け方 | 金額が確定してから財産分与の取り決めに反映できる | 先に決めた分け方と、実際の売値がずれることがある |
| 住まい | 引渡しまでに2人とも次の住まいを決める必要がある | 一方が住み続けている場合、退去の時期を合わせる必要がある |
| 税金の特例 | マイホームを売ったときの3,000万円の特別控除は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却などが条件。夫婦など特別の関係がある人への売却は対象外 | |
財産分与の取り決めとの順番も考えておきましょう。売る前に分け方を決めるなら「売れた金額から費用とローンを差し引いた残りを半分ずつ」のように、金額ではなく計算の方法で書いておくと、売値が見立てと違っても困りません。例:売値3,000万円、費用とローン返済で2,400万円かかった場合、残る600万円を300万円ずつに分ける、という書き方です(架空の数字)。
税金については、マイホームを売ったときの3,000万円の特別控除を受けるには確定申告が必要で、離婚後に家を出た人が売る場合は住まなくなった時期にも注意が要ります。細かい条件や財産分与にかかる税金は国税庁の資料で確かめ、迷うときは税務署に相談しましょう。
よくある質問
家全体を売ることはできません。民法第251条は共有物の変更にほかの共有者の同意を求めており、法務省の法制審議会の資料でも、共有物全体の売却などの処分は共有者全員の同意が要ると解されていると説明されています。
専任媒介契約と専属専任媒介契約は、宅地建物取引業法で3か月が上限です。依頼者の申出があれば更新できますが、更新後も3か月を超えられません。一般媒介契約に法律上の上限はありませんが、国土交通省の標準媒介契約約款では3か月以内とされています。
国税庁の説明では、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることが条件の一つです。ほかにも要件があるので、売る時期が決まったら国税庁の資料や税務署で確かめましょう。
まとめ
参考にした資料
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(第34条の2・第35条・第37条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/327AC1000000176(確認日 2026-10-19) - e-Gov法令検索「宅地建物取引業法施行規則」(第15条の9・第15条の10)
https://laws.e-gov.go.jp/law/332M50004000012(確認日 2026-10-19) - 国土交通省「宅地建物取引業法施行規則の規定による標準媒介契約約款」
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001719919.pdf(確認日 2026-10-19) - e-Gov法令検索「民法」(第251条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(確認日 2026-10-19) - 法務省 法制審議会民法・不動産登記法部会「部会資料3 共有制度の見直し(1)」
https://www.moj.go.jp/content/001293295.pdf(確認日 2026-10-19) - 国税庁 タックスアンサーNo.3302「マイホームを売ったときの特例」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm(確認日 2026-10-19)

