夫婦で暮らしてきた家を離婚をきっかけに手放そうとしたとき、売れそうな金額よりも住宅ローンの残りのほうが多い、と分かることがあります。この状態を一般に「オーバーローン」と呼びます。売って終わりにはできないため、足りない分をどうするか、そもそも売るのかを決める必要があります。
この記事では、抵当権のしくみと、3つの進め方の前提と注意点を公的機関の資料をもとに整理します。文中の金額は説明のための架空の数字です。
まず手元の書類で状況をつかむ
オーバーローンかどうかは、感覚ではなく書類の数字で確かめます。ローンの残りは、金融機関から届く返済予定表や残高証明書で分かります。売れそうな金額は不動産会社の見立てで、そこから仲介手数料などの売却費用も差し引いて考えます。
家に抵当権が付いているかは、登記事項証明書で確かめられます。法務省の説明では、登記記録の権利部は甲区と乙区に分かれ、乙区には抵当権など所有権以外の権利が記録されます。登記事項証明書は、名義人でなくても交付を受けられます。
抵当権はローンを返し終えるまで外れない
抵当権は、お金を貸した側が、返済が滞ったときに担保の不動産からほかの債権者より先に返済を受けられる権利です(民法第369条)。民法は、債権の全部の弁済を受けるまでは目的物の全部について権利を行使できるという規定(第296条)を抵当権にも当てはめています(第372条)。つまり一部を返しただけでは、抵当権は家全体に付いたままです。
ローンを返し終えると、抵当権者である金融機関から、登記の抹消に使う書類(解除証書・弁済証書といった登記原因証明情報や委任状など)が届きます。これを使って法務局に抵当権の登記の抹消を申請する、というのが法務省の案内している流れです。売却する場合は、買主から受け取る代金でローンを返し、その場で抹消の手続きに進めるのが基本の形になります。
裏を返すと、売却代金だけでは返しきれないなら、その差をどう埋めるかが決まらない限り抵当権を外せません。オーバーローンの家が売りにくいのはこのためです。
3つの進め方の比べ方
オーバーローンの家への対応は、大きく次の3つに分かれます。どれが合うかは、手元のお金・毎月の返済を続けられるか・2人の今後の住まいによって変わります。
| 進め方 | 中身 | 前提になること | 気をつけたいこと |
|---|---|---|---|
| 足りない分を手元資金で補って売る | 売却代金に預貯金などを足してローンを返し終え、抵当権の登記を外してから買主に引き渡す | 決済の日までに不足分のお金を用意できること | 誰がいくら出すかを、財産分与の話し合いと合わせて書面にしておく |
| 任意売却 | ローンを返しきれない金額での売却を、金融機関に承諾してもらって進める | 返済を続けることが難しい状況にあり、金融機関が売出価格や抵当権の抹消に応じること | 売却後も返しきれなかった分の返済は続く。延滞などの記録が信用情報に残ることがある |
| 売らずにどちらかが住む | ローンの返済を続けながら、夫婦の一方(または両方)が住む | 毎月の返済を最後まで続けられる見通しがあること | 将来売るときも残高が売値を上回っていれば同じ問題が起きる。誰が払うかを書面に残す |
足りない分を手元資金で補って売る
例:売れる見込みが2,300万円、仲介手数料などの売却費用が100万円、ローン残高が2,600万円の場合(架空の数字)、売却で手元に入るのは2,200万円で、400万円が不足します。この400万円を預貯金や親族からの援助などで用意できれば、決済の日にローンを返し終え、通常の売却と同じように抵当権を外して引き渡せます。
離婚のときに問題になるのは、不足分を誰がどれだけ負担するかです。夫婦の財産全体をどう分けるかと切り離せないため、財産分与の話し合いの中で金額と負担の割合を決め、書面に残しておきましょう。
任意売却
返しきれない金額での売却を、貸している金融機関に承諾してもらって進めるのが任意売却です。住宅金融支援機構は、返済の継続が難しくなり、やむを得ず断念する場合の方法として任意売却を案内しています。裁判所の手続きである競売と比べ、一般に高い値段での売却が期待でき、引き渡しの時期も調整しやすいとしています。
同機構の任意売却パンフレットでは、手続きの前提がはっきり書かれています。
- 全額の繰上償還の請求を受けていない人は、原則として月々の返済を行う権利を放棄する申出書を出す(残りの全額の繰上償還を求められることになる)
- 売出価格は機構の確認を受ける。機構が抵当権の抹消を承諾してから売買契約を結ぶ
- 最初の媒介契約から6か月たっても購入希望者が現れない場合などは、競売の手続きに移ることがある
- 売っても返しきれなかった残りの債務は、破産免責となっている人を除き、返済の義務が残る
つまり任意売却は「毎月の返済を続けられない」状態であることが前提で、売ったら借金がなくなる方法ではありません。機構以外の金融機関の扱いは契約ごとに異なるので、借入先に直接確かめてください。
信用情報への影響も知っておきましょう。全国銀行個人信用情報センターでは、住宅ローンなどの返済状況(延滞・代位弁済などの事実を含む)が取引情報として登録され、契約期間中と、契約終了日(完済していない場合は完済日)から5年を超えない期間保有されます。登録がある間は、新しいローンやクレジットカードの審査で参照されます。
売らずにどちらかが住む
返済を続けられるなら、売らずに住み続ける道もあります。オーバーローンの状態は返済が進めば解消に向かう一方で、途中で売ることになれば同じ不足の問題が出てくる点に注意が必要です。名義人と住む人が違う場合の取り決めは、別の記事で詳しく扱っています。
収入が減って返済が苦しくなったときは、延滞する前に借入先へ相談しましょう。住宅金融支援機構では、返済期間の延長などで毎回の返済額を軽くする返済方法の変更の制度を設けています(審査があり、総返済額が増える場合もあります)。
どの進め方でも書面でそろえておくこと
- ローンの残高(残高証明書)と、売却費用を差し引いた手取りの見込み
- 登記事項証明書で見た名義と、乙区に記録された抵当権の内容
- 不足分を誰がいくら負担するか、売らない場合は誰が返済を続けるか
- 任意売却を考えるなら、借入先が示す条件と売却後の返済計画
離婚後に「言った・言わない」にならないよう、数字と取り決めは書面に残しましょう。判断に迷うときは、弁護士・司法書士などの専門家に早めに相談してください。
よくある質問
原則として外れません。民法は、抵当権者が債権の全部の弁済を受けるまで、目的物の全部について権利を行使できるとしています。一部の返済で抹消に応じるかどうかは金融機関の判断で、任意売却ではその承諾が前提になります。
なくなりません。住宅金融支援機構の案内では、任意売却による返済金が債権額に満たない場合、破産免責となっている人を除き、残りの返済義務は残ります。売却後の返済計画は生活状況をふまえて相談するとされています。
信用情報機関ごとに決まりがあります。全国銀行個人信用情報センターでは、返済状況を含む取引情報は契約期間中と契約終了日(完済していない場合は完済日)から5年を超えない期間、CICではクレジット情報が契約期間中と契約終了後5年間保有されます。自分の登録内容は各機関の本人開示で確かめられます。
まとめ
参考にした資料
- e-Gov法令検索「民法」(第369条・第372条・第296条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(確認日 2026-10-19) - 法務省民事局「住宅ローンを完済したことなどによって不動産の抵当権の登記を抹消するための登記申請手続について」(令和6年4月版)
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001415368.pdf(確認日 2026-10-19) - 法務局「住宅ローン等を完済した」
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/fudousan3.html(確認日 2026-10-19) - 法務省「不動産登記のABC」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji02.html(確認日 2026-10-19) - 住宅金融支援機構「融資住宅等の任意売却」
https://www.jhf.go.jp/hensai/baikyaku.html(確認日 2026-10-19) - 住宅金融支援機構「任意売却パンフレット」(令和8年4月)
https://www.jhf.go.jp/files/topics/5253_ext_99_0.pdf(確認日 2026-10-19) - 住宅金融支援機構「月々の返済でお困りになったとき」
https://www.jhf.go.jp/hensai/hensai/komatta.html(確認日 2026-10-19) - 全国銀行協会 全国銀行個人信用情報センター「センターの概要」
https://www.zenginkyo.or.jp/pcic/about/(確認日 2026-10-19) - シー・アイ・シー(CIC)「CICが保有する信用情報」
https://www.cic.co.jp/confidence/posession.html(確認日 2026-10-19)

